よくできてました。

サイドカーに犬』を見ました。

長嶋有による短篇小説「サイドカーに犬」の映画化作品で、原作は芥川賞候補作(受賞はその次の「猛スピードで母は」)。

 

30歳になった薫は弟と会ったことを契機に、弟と別れた幼い夏の出来事を思い出す。

母が出ていった夏、父はご飯を作ってくれる人として「ヨウコさん」を呼んだ。

斬新なヨウコさんに薫はすぐに惹かれていくが、父との関係の終わりは薫とヨウコさんとの別れをも意味していた。

ヨウコさんの「夏休み」に付き合う薫だが、母の帰宅によって終止符が打たれる。

大人になって弟からヨウコさんの住んでいたアパートの場所を聞くが、そこは既に駐車場になっていた。

というおはなし。

 

よくできてました。

つまんなくなくて、筋でこんがらがることもないし、登場人物は魅力的でないこともない。

原作でもそんな感想だったと思う。

強烈でもなく見え見えでもなく、否定ばかりを重ねてついにオリジナルに至るというほどでもなくて、

うん、いい話だねってくらいしか言いようがない。

よくつくってあんなあって感じです。

人に勧めるかというと、別段、そうでもないです。

なんかイマイチ煮え切らない感想は、竹内結子のせいだと思うんですよ。

劇中に『ヴィヨンの妻』なんか読んじゃうような人で、ドイツ製の車輪がほっそい自転車に乗ってるような人だから、

あんまり下衆下司した女性でもいけないし、

かといって楚々としてるわけにもいかなくて、

子供がなつきやすいような母性もなくちゃいけなくて、

しかし古田新太と恋仲になるようなスレた雰囲気もほしいと思うんだけど、

という風にこのヨウコさんの人物加減が物語を展開する肝なわけでして、

その求心力が竹内結子ではちょっと薄かったかなあと。

あの人間関係に収まり過ぎててもいけないし、馴染めてなくては主人公の驚きに感情移入できなくて、

竹内結子ではいくらソバージュにしても御尊顔の整い方や表情や声が、

古田新太の中古車販売連中からは縁があるように見えなくて、

もっと肉々しいところがほしかった。

例えばあと少し太るとかして。

肉布団とまでは行かずとも、肉羽織りくらいは。

首周りか二の腕の霜降りとか、表情には行き詰まり感がほしかった。

それもあんまり行き過ぎると、薫ちゃんがなつくのがヘンとか思っちゃうんだろうけども。

それが本当に絶妙な役どころを拵えた長嶋有のアッパレなところですが、

これだけチョットナーとか言っときながら、原作に特に入れあげてるわけでもないし、

夢中になって読み返したような記憶もなく、

この平熱具合は映画観終わったあとと読了とでは等価なので、

その点では映画化に成功してると言えると思います。

なんてバカにしてるみたいですが、

原作ではあまり描かれてなかった(と思う、なんせ語ってるから)主人公の薫ちゃん役の女の子がとっても可愛かったというところは特筆すべきと思います。

あと、冒頭に一瞬だけ伊勢谷友介がでてるとか、温水洋一の演技が何故か下手だとか、何故か椎名桔平が起用されてるなど、いまいちよくわからないところは勝手に楽しめると思います。

 

見てハズレはしないと思います。