思い出も夢もモノクローム

フェイスブックでシェアされてた漫画が色覚障害を扱ってて、俄然興味深く読んだ。

 

色覚障害は、読んで字のごとく、色を感覚するのが容易でないこと。

ざっくり言うと、色の区別がつかなくて、薄い濃いは分かる。

 

世の中の障害と同じように、色についての障害と一口に言えても、その度合やら見えない色は様々あって、色という色全てが判断できずただ濃さで区別するのもあれば、

赤と緑の判別がしにくい人もいる。

極端な話、『ノルウェイの森』の単行本版の表紙の区別を字によってすることになる。

 

何を隠そう私も色覚障害があって、赤と緑の判別がけっこうしにくいです。

だから黒板の板書で大事な所を何でわざわざ見難い赤チョークで書くのか不思議だったし、教師ってのはどうしてこう馬鹿なんだろうと舐め腐ってました。

 

色覚障害では一度理不尽な目に遭いました。

今の小学校ではしないらしいですが、昔の小学校では色覚障害検査があって、

色んな色がわちゃわちゃとある紙を見ろと言われ、

そこに書いてる字を答えろと言われる。

 

何言ってんだこいつ、何も書いてねえのに数字なんて言えるわけねえだろと、

既に舐め腐ってますがとにかく、

書いてないものは読みあげられないわけで、読めません、書いてありません、と言うと

担当してた保健の先生に激怒されました。

激昂されて色覚障害が治るわけでは無いことを保健の先生は知らず、

親を読んで親の前で検査すれば色覚障害が治るわけでないことも保健の先生は知らないようで、

「おたくのお子さんは色覚検査でまじめに答えようとしません」と後日、学校に親が呼ばれました。

キレ気味の保健の先生と不思議そうな父には読める数字が、うんざりしてる私には読めませんで、

そこまでしてやっと、ふざけているのではなく色覚障害であることに保健の先生は思い至ったのでした。

 

あのさ、親を呼ばなくちゃいけない検査ってなんだよ。

紙見て読める/読めないで判断できるように検査キットが作ってあるはずなのに、無駄なことしてんじゃねえよって。

 

どう頑張ったって他の人とは見えるものが違うことは、自分の見えてる世界が自分一人のものでしかなくて、世間との距離に拍車をかけられたような気がする。

私が描いた絵が私が描いたように見える人は私しかいない。

綺麗な絵だねとか言われたとしても、見え方は違うわけだから、見当はずれの褒め言葉は嬉しい半面、どうせなあトもっと溝を意識させる。

 

既に捻くれてたのか拍車をかけられたのか、あるいはその両方か、その漫画はとっても違和感のあるものでした。

泣けるとか切ないとかいう物語的なオチに回収しないでくれと。

恋愛とか死とかを派手に見せるための仕掛けでしかなくないか、その色覚障害は、と。

別にそれだって全然問題は無いんですよ。

タイタニック』は船をあるいは海難事故を見せるために作られた映画じゃねえ、恋愛映画だ。

でもたぶん、遺族はあんまりあの映画に対して穏やかじゃないんじゃないかなって。

 

何も腹立てることはない。

でも何か、感動する仕掛けって扱われるのが釈然としないんですよ。

恋人が死ぬのって悲しいって伝えるためには、別に髪が真っ白になったっていいだろうし、声を失ったっていいだろう、物語上の仕掛けに使うんだから、なんだって良いんだろう。小指がうまく曲げられなくなって、手品を大掛かりなものにせざるを得なくなったマジシャンとか、ギターが弾けなくなったけどピアニストとして再起してグラミー賞を何度も受賞するミュージシャンになったとか、そんなでもいいだろう。

ショックで円形に抜けたハゲがハートの形になってたとかでもどうせいいだろう。

 

こういう、個人的には具体的な悲劇が、抽象的な主題を効果的に表すだけの小道具として使われるのを見るたびに、スチュアート・ダイベックが『ライフイズビューティフル』に対して怒ってたことを思い出す。

私の色覚障害は(多少なりとも仕事に差し支えがあるとはいえ)悲劇とは言えない。

主題として認識される愛とか死のほうが大きい。

でもさ、ホロコーストって事実の方が、主題として認識される悪よりも巨大。

 

頭じゃ分かるんだけど、やっぱりなんかいやだ。

そんな簡単に回収しないでくれと思う。愛とか恋とかおっきなことだけじゃなくてもっといろんな細かいことがあるんですよと。

そして色覚障害があると、そのオチの美しさが結局理解できない。そんな美しさがあると言われるけども、たぶん一生、ホントにそんな美しさがあるかわからない。わからないまま死んでく。色覚障害用のメガネがあるけど、極端に言ってしまえば、それだってどこまでかわかったもんじゃない。

 

夢ってカラーなんだってね。人から聞いてびっくりした。

わたしのみる夢がモノクロなのも、色覚障害に由来してるんでしょうね。

思い出も夢もモノクローム

 

色覚障害用のメガネのウェブサイトで検査してみたら、やっぱり緑と赤が見難くかったです。

何回かやってみた。微妙に数字に見えるものは答えてみたり、少しでも見えないとわからないと答えてみたりして、結果、中度から強度でした。

 

あんなので数字が見える人がいるってのが不思議。

色覚障害だとこう見えるって比較画像と元画像との違いがわからない。

変な感じ。