君は三原色

ブルデートってしたことありますか?

 

ブルデートどころかデート自体を久しくしていないのですが、

有難いことに友人からダブルデートしようという連絡が来て二つ返事しながらも半信半疑でおりました。

初めてかけられるドッキリなのか、本当のダブルデートなのか、期待させてからかおうという肚なのか、気を使ってくれたのか。

男女で合計四人なのですが、一人が片思い(レッド)、一人がその相手(ブルー)、二人それぞれが知り合いを連れてきているという編成で(ブルーが連れてきたのがイエロー)、

ブルーは、全く気づいていないのか、はたまた気づいていないふりをしているのか。

レッドは露骨であからさまで白々しいほどに明白で火を見るよりも明らかで、

初対面でも半日いっしょに過ごしただけでその諄さに胸焼けすると言われているんですが、

そんな懸想に果たして気づいているのかいないのか、

見極めたろうと勝手なテーマを決めて行きました。

 

一対一で話すというのはまあなんとか、口の動かないわりになんとか意思の疎通が図れるのですが、

三人以上となるともうからっきしにダメで聞き役に徹してしまいます。

もう本当に苦手で、

あのワイワイのガヤガヤにすっと入って社交性を発揮するなんて。

そんなご無体な。

じっと喋らずにいて気を使われるか無視されるかの二択しかないので、

まあしかし、その日は聞き役に徹して、ばれないように涙を拭けばいいやと思っておりました。

 

実際合ってみたらば、

ブルーはレッドから片思われていることを知らずに、

レッドに友達イエローを紹介して、くっつけてしまおうという算段であったように、

どうやら思われるような言動がちらほらと散見されるわけであります。

食事に誘えや口説き方やら、アプローチはどうだ、前日の連絡方法はこうだのと、

色仕掛け四十八手を口伝していたんですよ、これからくっつけさせようとしているその目の前で!

つまり、三人で場が必要な登場人物が揃ってるわけですね。

仲人と若い二人。

ということでおまけ一名。

 

まあまあまあ、それだけの場では無いでしょうから、

さすがに会話が「落とし方講義」とか「関東ナンパ実録」とか「色懺悔二人比丘尼」とかそんなことだけじゃないでしょうからね。

そんなついでとかみそっかすとか数合わせとかだけ取り出して面白おかしく思い出していると思いたいそこの私、

この割にあわない感を久しぶりの会話だったという所為にしたいそこの私、

他の会話の中でも余り物の爪弾きにされていたことを思い出して、

自分は本来的にどのように振る舞えばよかったのかを考えていきます。

そしてその記憶が妥当であるのかそんな理解は不当であるのか、

いやいや実際に空気を読まずについてきた邪魔者だったのか、

はたまた引き立て役としては少なからず機能していたのか、

思い出してずっと落ち込んでいようかしら。

 

ここから具体例を挙げていきたいのにどうにもタイピングする指を動かしたくないというしかし書かないことにはというこのカウンセリング感。

やはり辛かったのかしら。

 

初め、顔合わせの時には特に何も嬉しい予感も嫌な予感もなく、

どうもーみたいな感じだったんですけどね。

編成から導かれた性別的数合わせという、

半信半疑の疑いばかりが増していくきっかけは序盤で現れていました。

ジャブというつもりさえなかったのかもしれませんが、

まあ三人でサークルが閉じていくわけですね。

というのも、三人のうち二人は初対面でありながらも同じ業界にいるので、

共通の知り合いが多いんです。

 〜でxさんがー、

 え、xさん知ってるんですか、

 まあ、あのyでちょっと、

 えーすごーいw、xさんっていえばこんなことあったんですよ聞いてくださいよー、

 ちょっとだけですけども話した時は全然そんなふうじゃなかったけど、けっこう言うんですねxさんって、

 そうなんですよー、そうだ、じゃあzさん知ってます?

 あー、はいはい、たしかkのときかな、何回か飲みに行きましたね、

 うっそーすごーいw、けっこう狭いですねーw

みたいな時ってやっぱ大人しく相槌打ったりしてるしかないんですかね。

ほほー、うわー、かなわんなー、げげっ引くわー、なるほど、あっちゃー、それは無いですよね、わかるわかるー、たしかにね、はいはいはいはい、

己の肉体を人間相槌製造機に変えて嵐が過ぎ去るのを待つのが得策なんでしょうか。

人間関係大陸がぶつかって盛り上がる、知らない話を掘り下げて、話の種が蒔かれては、打つ相槌の雨霰、噂話の枝分かれ、そもそも知らない人たちの、噂話の蕾には、初めて聞いた名前とか、秘密の関係あれやこれ、右から左と聞き流し、三人のみの呵々大笑。

たぶん、みそっかすも入れる共通の話題はみそっかす自身が捜すものですよね。

したい話をして盛り上がってる三人の航路を強引に自分に引き寄せるような力が求められていたのかもしれません。

その場の空気に柳に風と流されているのではなく、どんと構えて「知らん話するな」の一点買いをするしかないんでしょうかね。

それとも、頷いてるのが良かったんでしょうか。

というわけで一曲、うなづきマーチ。

 

業界が違うんだからしゃーないわな、仲間外れもクソもあらへん、そもそもなんやから、

と自分を騙しておいて、

とはいえ、やはり馴染めていなかったと思い出せるのは、業界に限った話題だったんでしょうか。

話題は服にも及びました。

というのも、スタイリストに見繕ってもらった服を着てきたという話がありました。

これがその日集合時間の第一声「お、そのズボン素敵」みたいなところから始まり、

ところどころで「それいいよねえ」と入ってきて、

その帽子がどうのこうの、眼鏡はあーだこーだ、シャツがどうだ、バッグがなんやかや、その格好だとギター弾いて歌ってそうだの、北欧とのハーフなの?、ヨーロッパっぽいよね、

だのなんだの!

そいつはギターのギの字どころかろくに音楽も聴かねえ!こっちはギターベースドラムピアノ弾いてるよ!

と食いつくこともせずに、相も変わらず馬鹿の一つ覚えである相槌を乱射しておりました。

ときどき、服を着忘れてきたんじゃなかったかと思い出しては目線を下げずそっと裾に触れてホッとするやら込み上げてくるやら汽笛がなるやら噎び泣くやら花が散るやら。

どう振る舞ってればよかったんですかねと考えるまでもなく、

その日一日おそらく、どう振る舞ってても三人の世界だったから、別にどう振る舞うべきであったかと思いだしても考えなくても、

どうしようも何もはじめからの負け戦、退却戦だったわけですね。

そうだ!噛ませ犬だったんだ!

というか、引き立て役ってことは噛ませ犬のことですけどね。

 

ブルーの企図として、レッドとイエローをくっつける際に用意した噛ませ犬だったわけか。

納得じゃ納得じゃ。

そして勿論、悔しいです。

惨めで、こんなみっともない思いをしたのも初めてです。

それに当日に気づかないアホもアホですけどね。

いや、計画されてる時点で噛ませ犬だと察知しろよと。

その上で、ちゃんと、幇間役になるなりださい格好で行くなりしろと。

じゃなけりゃあ、そんなナメられないように侮られないように、社会的地位やらお洒落やらを備えておけと。

いうことですよねきっと。

 

いやあ参った。

気づけたのは気づけてよかった。

気付かなかったヌケサクということまで気づけました。

 

ヌケサク噛ませ犬説だけでなくて、もう一つ説があります。

それは、ブルース・ウィリス説です。

ブルデートなんて思ってホイホイひょこひょこついてきたけども、

本当はもう死んでいて幽霊になっているために誰からもファッションについて評されず、

趣味や過去の恋愛関係、恐怖体験やら最近食べた美味しい物の話などなど全く聞かれなかったのは、

本当に見えなかったからだ説ですが、

この信憑性としては、無職であるためにある意味社会的に死んでいるので、強ち間違いではないどころか、

これで決まりかなとも思っております。

ああ、仕事探さな。