手作り版「世界まる見え」
見世物小屋って見たことありますか?
今年はじめて見ました。
そういうものがあるのは知ってましたが、
騙され具合を愉しむものと聞いてたので、
ダマされるとわかって騙されることもなかろうと全く興味を示してきませんでした。
「大イタチ」みたいなね。
秘宝館とかもそういうものですよね。
いかがわしさと、偽物っぽさ。
予習としてググったりしてたんですよ。
そんでドキュメンタリー映画とか見つけて、とはいえ本編はまだ見てなくて、
特集した金曜深夜便を見たりして、
わくわくを膨らませてたわけですよ。
うわーとか、すげーとか思いながら映像にうっとりしてたわけですよ。
で当日、浪曲師のようなだみ声の呼び込みに吸い寄せられるようにして中に入ると思いきや、
入り口には大学を4年くらい留年してるような青年が特にネタにもならない声で、
モノマネの対象にならないような型のない呼び込みを疲れのみえる必死さでしてるわけですよ。
学園祭の出し物にいる呼び込みっぽいとでも言いましょうか。
プロというよりは、慣れてる素人という感じのこの引きこまれなさ。
嘘だとわかっちゃいるけれど、進んで騙されたくなるような、こんなこと言われるなら騙されてもいいかなと思っちゃうような、そんな催眠的な効果の無い呼び込みに、
予習でもってうっとりしていた頭に冷水を浴びせられて、
あ、これは求めていたあの感じじゃないかもしれないぞ、
と目が醒めながらもテントの入り口をくぐったらば。
既に演目は始まっておりました。
ピンクレディーみたいな服装の奇抜な化粧の女がマイクで、虫を食べるんだとか芋虫、ゴキブリを食べるんですとマイクで煽るためにしゃべっていて、
そのアシスタントとして千堂あきほと同じ髪型でガタイのいい男が虫カゴからその「ゴキブリ」や芋虫を取り出して皿に開けていました。
やっていた見世物は「ヤモリ女」。
つやつやと光るみどりの黒髪を三つ編みにして、
ウグイス色のワンピースを着た女の子がその「ヤモリ女」。
顔はけっこう整ってるんだけど、表情が無いからなのか、とても暗く見える。
「ヤモリ女」を演じてるから暗いというよりは、そもそも暗そうな顔の人っているじゃないですか。ミスコンには向いてないタイプと言いますか。
で、皿に開けられた虫を犬食いするわけですが、テント内が満員で、皿は舞台の前の方に置かれ、実際に食べてるかどうか目にできるのは舞台の際にいる数人だけ。会場にはオッサンだけかとおもいきや、抱えられている子供連れの夫婦もいたり、高校生くらいの女の子3人組とかギャル男がけっこういるように見られました。「教育に悪そう」とか声も聞こえてきておかしかった。
虫食いが見られずになんだよ金返せ(後払いだからまだ払ってない)と言いたくなると、「ヤモリ女」が上体を起こし、前歯で芋虫を三匹噛んでるとこを見せる。
司会者がうわーすごーいとか煽る。
前歯でギチギチと噛み始める。芋虫が動く、身を捩る、どんどん芋虫が短くなっていき前歯の奥に消えていく。
その間、特にひえーとかうわーとか、そんな言葉は特に聞こえず、かといって固唾を呑んでというくらい集中して見ているという雰囲気でもなく、なんとなく白けて無言という盛り上がらない観衆に見られてるヤモリ女は、口にくわえた分の芋虫は咀嚼して、芋虫ペーストをのせたベロを出して見せ、ごくんと嚥下したあとでまた丁寧にベロを出して見せる。
で、「ヤモリ女」おしまい。
すると客が入り口と逆側に誘導される。
どうやら出口らしく、お金を払っている。
人の減ったところに客が移動し、入り口に客が追加される。
どんどん入ってきてまたいっぱいになる。
次の演目が始まって、証明が消され、舞台上の出入口が開き、今度は病気老人が出てくる。
こうやって5分くらいの出し物を繰り返しているらしい。
老人役の男は上半身ハダカで、どう見ても老人の肉体ではない。
明らかに若者で、明らかに白塗りで、明らかにマジックか何かで描いたシミがある(頭髪は病気っぽくいくらかはまだらに禿げててそこは高ポイントでしたが)。
大丈夫かと聞かれて「大丈夫じゃない」と答える。
体中が病気で(確か肝硬変と言ってた)、体中に穴が空いているという。
そんな設定で出し物はというと、鼻から細いチェーンを入れて口から出し、口から出してるチェーンを使って水の入ったバケツを持ち上げるというもの。
またしても客はローテンションの無言で、老人役を笑うでも引くでもない。
体を張ったことをしてる割に反応がないというのは、結構辛いんじゃないかしら。
そこまで体を張ったと言うほどもでも無いかもしれないけども。
その次は口で5本くらいの束ねた蠟燭の火を消すというもの。
何故か原始人という設定で、何故かその役をギャルがやっていて、司会者はその子の本名なのか「きょうこちゃん」とか呼んで「あっ。いけね。ぴょんこちゃーん!」とどうでもいい設定を守ってる割には、
こんなギャルはもう絶滅したと思ってたでしょとか煽っていて、原始人なの?ギャルなの?と笑ってしまう。
てっきり、予習の際に予告編で見ていた蠟燭のろうを口で受け、
火炎放射器をするのかと思ってたのでがっかりでした。
その直後にでてきた土人も、なんだかなあ。
残念なことに次がヤモリ女で、どうやら天井裏で育って虫ばかり食べてたからヤモリみたいだねってことで、ヤモリ女なんだそうです。
生きてる蛇を生齧りするから蛇女ってのもあって、なのにヤモリの生齧りじゃないとか芋虫女じゃねーかよとヤジをぐっとこらえて出口に行きました。
するとそこには和服を着た背の低いおばあさんが3人も!
めちゃくちゃ昭和っぽいイメージ!田舎でもこんなリアリティのあるおばあさん見られないよってくらい、見世物小屋っぽい怪しさをまとったおばあさんが見られて、妙に納得してしまいました。
出口でテント外観の写真を撮ってると小学生くらいの女の子と母親らしき二人が記念写真をニコニコと撮っていて、
自分の見世物小屋に対するイメージが随分と偏ってたんだなあと思い知らされました。
何も怪しいところだからって、怪しいうらぶれたっぽい人ばかりが見に来るんじゃないですよね。
恐らく、都市部で育ったとか、市街地で育ったような人にはさして珍しくもないものなのかもしれないなと思いました。
私はといえばど田舎で貧乏だったもので、神輿と公民館しかない田舎の祭しか知らず、町で行われる露天の出る祭は、もう露天があるだけでいかがわしく仄暗い誘惑があり、しかしながら貧しくて特に何かを買ってもらうこともなくいい年になると、
今度は恨みはらさでおくべきかとばかりに露天に行くようになる前に、コスパ悪いなとか身銭切って買うほど美味しくなさそうとか、冷めてつまらなく現実的になってしまいました。
そんな凝り固まった頭で行った見世物小屋はまるで気合の入った学園祭レベルで、
テントで見る手作り版「世界まる見え」というフレーズが、その親子を見てて浮かびました。
ちなみに、見世物の途中で、司会者がコンビニで買ったであろう紙パックのカフェオレを舞台には背を向けつつぐびぐびと飲んでるのを見て、
1,遊びでやってんのかよ
2,ずっと客が入ってくるからみんな休憩してないんだな
3,とは言え銘柄隠すとか「蛇の生き血」ってパッケージにするとかしろよ
と複雑な気持ちになりました。
二度目に見たイモリ女は無表情を装っていながらも何だか目が潤んでるように見えて、
身売りされたわけじゃないとはいえ、好きで虫喰ってるわけじゃねえよなあと思っちゃったんですけど、
そう思われるようになると、「見世物」を見せてるんじゃなくて、
「見世物をやってる人」が見られてることになって、
つまり、見せてるつもりがメタに見られてるのは、意図してないだろうから、嫌だろうな。
見世物自体では見せられないから、そういうところまで見られてしまうんでしょうね。
見世物をする人たちはドキュメンタリーの対象としては興味深いです。
学園祭っぽいと思ったのは若い人の演劇を見に行くことがあったから、それに似てるなあというだけなんですけど、
そう思ったのは第一に、舞台に出てる人の年齢が大体同じに見えること。
20代から30代ってとこじゃないですかね。
司会者は元気でしたがちょっと年上かなって感じですが、それでもやっぱりひとくくりにみられる。
すげえ若いとかすげえ老けてるとかがなくて、同じような年齢の人たちが衣装メイクでなんとかみせようとしてるのが、学園祭っぽかったです。
あと、みんなふつうの体型なんですよね。
極端に太ってるとかガリッガリだとかがないどころか、
ちょいぽちゃでも痩せてるでもない。
かなり健康体の若者が舞台上で、設定甘く頑張ってるんですよ。
学園祭っぽいでしょうよ。
伊丹十三が『タンポポ』のメイキングで、タンポポ立て直しのために集めたメンバーを、タンポポの看板が出来た時に全員を画面に収めるんですが、
そのときのナレーションで、ちょっと日本映画っぽくないでしょうというようなことをいってたわけ。
確かに、じいさん、巨漢、運転手、宮本信子って、けっこうバリエーション豊かな印象があるんですよ。寄せ集めとも言うだろうけども。
それが頭にあるから、見世物に出てきた人が代わり映えしなく見えるんですよね。
まあそれも結局、見世物が面白くなかったからそう思うだけで、
見世物に驚いてたらこんなことは思わないわけですが!
行った時間もあったのか、けっこう人はずっと入ってましたね。
あれで大人800円だから、けっこう儲けにはなってんでしょうね。
場所代とか人件費とか機材費とか合わせてどれだけの儲けになるのかなわかりませんが。
奨めるかというと、奨めませんね。
入った瞬間に800円分の後悔します。
まあでも、ハレとケでいうハレの日に出るものなんで、テンションあがっちゃってうひょーな気分で見て、現実感に掴まれて酔いを覚ますのも一興かと思います。
すすめませんが、次、どこか別な場所でテントを見た時には入るかどうか悩みますね。
今度はもうちょっとマシかな〜って。
同じ時間のムダなら大学生の演劇サークルをすすめます!
タダなんで!