胸糞悪いの見ちゃったなあ
『大江戸りびんぐでっど』見ました。
クドカンによる作・演出の歌舞伎。
笑えるのは笑えるけども、
ストーリー展開がゆるくてふわふわしてた。
江戸にゾンビが発生するが、
手懐けようがありゾンビの派遣会社を設立して儲ける半助。
実は半助は江戸に出る際に妻の前の亭主を殺していたが、
その死んだ亭主が半助の前に現れる。
事件の真実を知らされた半助だが、妻を守っていくことを固く誓う。
っていうのが最後までのあらすじ。
公式HPにある派遣切りの問題については、殆ど無いように思われました。
ゾンビは文句も言わず賃金もいらないといいことづくめという扱いで、
ゾンビの方が仕事がある。
むしろ正社員(という表現では出てこないのだけど)の方が、ゾンビ派遣に仕事をとられやしないかと怯えてる。
だが、ゾンビ派遣vs失業者という話にはならない(一回は衝突があるけども)。
ゾンビの派遣会社ができるまでで時間が大体半分くらいかかってるので、
長く感じた。
しかし、ゾンビの派遣会社ができると、あとは殆ど半助による殺人事件の回収がメインになって、
ゾンビの話があってもなくてもいいように思われた(半助の「信用できない語り手」風なものとして一応ゾンビはその流れに関係していはいるけども)。
過去の因縁と三角関係みたいなのは、短編か落語か何か元ネタか、定番の展開みたいのがありそうだった。
まあ、ゾンビというモノ自体が既にありものの焼き直しなので、
ゾンビのゾンビ性を活かして、みたいなことは期待するべきものではないかもしれないけども。
ゾンビ性を活かしてるのは派遣会社設立の時点で終わってるっちゃあ終わってる。
派遣をゾンビとしてしまうのは、たしか朝日新聞の人が「不愉快で見てられなくて途中で席をたってしまった」ということを書いていた気がするし、
それについて「いや、後半ではそこについてもうまくやってたんだ」みたいなことを書いてた人もいたと思うけども、
ゾンビとコミュニケーションとれたら金かからなくていいよねって話でしかないと思う。
クドカンが派遣はゾンビみたいなものだと思って書いてるとは思えず、むしろ何も考えてないと思う。
これが公開された2010年ってブラック企業って問題視されてなかったんだっけ?
ブラック企業に専門的に派遣して、いわゆる「ゾンビ企業」みたいなことも出来たかもしれない。
この作品が話題になって人気になって有名になって、派遣社員をゾンビと呼ぶようになったら、すっげえ嫌だなあとは思って見てた。
もしかしたら陰口的にもう使われてるのかも知れないけども。
そうなるようなのを備えてるのに無自覚で「ゾンビが働けるようになったら面白くないっすか」っていう感じが、何か嫌な感じがしたけども、
かといってそんなことを言い始めたら「じゃあ殺人を映画でやるのはいいのかよ」とかにまで話がおよびそうで面倒。
ゾンビを派遣と呼んでるうちに、現実で派遣をゾンビと呼んで、更に「あいつらって生きてるか死んでるか分からないよね。ってかほんとに死ねばいいのに」みたいに言うようになったら、気持ち悪い。
労働者として弱い立場を笑いの対象にするってのが、嫌だった。
で、いやあ洒落でやってんすよ、洒落がわからない野暮な人だなあと、
洒落ですましちゃうという手があるってのも気味が悪い。
別に、作品では巨悪を糾弾せねばならないとか、弱者の立場を考えて作品を作れとか、
そういう修身の教科書と勘違いしてるわけではないんです。
伊丹十三の『ミンボーの女』とか『マルサの女』みたいなのでなければならないって言うわけではなく、
ふざけて弱者を嘲笑するのって趣味悪いなあって。
勿論、国家権力に対して文句言うのもあまりスマートに見えないことの方が多いけども。
そらね、派遣のくせにとか、作品に表れた物言いとかが全てクドカンの思想信条をストレートに表現してるとは思ってないし、
ましてや歌舞伎役者や松竹が派遣社員を小馬鹿にしくさってるとは思いません。
ただただ、胸糞悪いの見ちゃったなあってこと。
クドカンのってあんまり見てないんだけど、
こんなのが多かったら嫌だな。
と思ったけど、『GO』は面白かった気がする。
舞台のは見たことないから、あまり期待しないほうがいいかもしれない。
面白そうなんだけどなあ。