『伊勢音頭恋寝刃』の予習してます

歌舞伎座の十月大歌舞伎でやっている「伊勢音頭恋寝刃」を動画で予習のつもりで見ました。

 

あらすじを取り違えていました。

福岡貢という侍が遊女にフラれたのでブチ切れて斬り殺し回ったという話だと思っていました。

もう身も蓋もないというか、何もそこまでしなくてもというか、「だから田舎侍は嫌いだよ!」と言われたのかなとか、そういうことを想像しちゃいますが、

と思ってウィキペディアを見たら、実際はそういう事件だったみたいですね。

それを『伊勢音頭恋寝刃』というフィクションにするに際して、そのまんまじゃああれだってことだからでしょうか、いろいろと設定が変えられてました。

 

重要な小道具は妖刀である青井下坂。これを若旦那が金に変えてしまって、これを手に入れなければならないのが手下の福岡貢。刀だけではなくこの妖刀の鑑定書も手に入れなければならない。

なんでも鑑定団なんかで昔の茶碗が鑑定されて、中身は偽モンだけども入れ物の箱は本物だから何百万なんてことありますよね。あれなんなんですかね。

なんとか妖刀は手に入れたのだが今度は若旦那の行方がわからない。だもんで好い仲のお紺という遊女のいる油屋に行って若旦那を待つ。そこで女中の万野にハメられてお紺と仲違いする。

そして、ですよ、こっからブチ切れた貢の斬り殺し回りが始まって、実は鑑定書を捜すために酷いことを言ったんでありんすとお紺が言って、実はその裏にはお家騒動のどうのこうのもあったらしいんですが、殺したし捜し物は見つかったしで、チャンチャン。

という話でした。

 

女中の万野にハメられてブサイクなお鹿という遊女をあてがわれて、しかもそのブスとは初対面なのに手紙のやりとりしたとか不思議ちゃんっぷりを発揮されて福岡もポカンとさせられて、宴会になると今度はブスが貢に着物やら櫛笄巾着ぐるみ金に変えてあるだけ貸してたなんてことを言い出して、証文見せろというと持ってきてこれは女中の万野が捏造したもので、しかし、貢はとことん耐えます。ここまでいっぺんも殴らず叩かず大声も出さないどころか一言の愚痴も漏らしません。ひたすらに耐えます。耐えて耐えて耐えぬいた挙句に懇ろの女から「そもそも侍なんか大嫌いだ!」と言われ売り言葉に買い言葉の「町人なんか嫌いだよもう遊んでやんないからね」と涙声。

そのあとに万野をまず殺しますが、もう見てる側からしたら「もういい!やったれやったれ!殺したれ!目にもの見せたれ!」と、殺すのも意外に爽やかではなくかなりしめっぽい応援です。

そう!この耐えて耐えて耐えぬいてその挙句の爆発という展開は、高倉健のヤクザ映画と同じなんですね。と言っても観たことないんですが。ヤクザ映画の源流の一端には歌舞伎の展開があったんですね。

とは言うものの『伊勢音頭恋寝刃』では更に責任転嫁がされていて、凶器が妖刀なんです。だから殺人の狂気は自前ではなく、容疑者はそのとき責任を取れる状態ではありませんでした。だからこそのヒーロー。

妖刀で、個人的にも恨みのある、主君の敵という、三本立ての免罪符が殺人劇をフィクションにしてるというわけでした。

別にそれで殺人が許されるという話ではないんでしょうけども、とはいえ振られたからってブチ切れて殺して回るというしょうもなさと一線を画すのはこの設定でしょうね。勿論最終的には振られてから殺しまわってるのですが。

話はまあ、そんなもんかいなというのは毎度のことですが、やっぱりかっこいいっすね。しかし、見なくてもいいかなあと思ったのも本当のこと。だったら『鰯売戀曳網』をもっかい見ようかしら。