『ホテル・ニューハンプシャー』の古典落語版
『幕末太陽傳』を見ました。
フランキー堺が主演で、脇役で石原裕次郎が出ている、落語をつなげて作った映画。
不思議な面白さでした。
物語は、居残り業をしている佐平次が、相模屋という女郎屋で、落語を元ネタに繰り広げるエピソード集で、更に幕末の攘夷をする連中との付き合いもあります。
ベースには「居残り佐平次」という落語がありまして、
居残りというのは、女郎屋で遊ぶだけ遊んで金が無い場合、金を誰かが持ってくるまでの人質、もしくは働いて返済することをいいます。
で、その相模屋に佐平次がいる間に起こる出来事が「品川心中」「三枚起請」「お見立て」という噺です。
時代が幕末なので、高杉晋作役の石原裕次郎と「〽三千世界の鴉を殺し〜」なんてやりとりをしたり、
異人を殺す!みたいなこともあります。
ウィキペディアに「グランドホテル形式」とあるように、
『The 有頂天ホテル』だっけあの役所広司が支配人のホテルのやつ、
あれみたいに、何か起こるとフランキー堺扮する佐平次が呼ばれて解決だったりややこしくしたりするんです。
和製スパイク・ジョーンズだったフランキー堺が女郎屋を舞台に難題やら暗躍やらに奔走するんだからおかしくないわけがないんですが、
それだけだったら、まあそんなもんかいなで終わってしまいそうなところを、
攘夷派の過激な一味も加わってるんだからということで面白かったのかなと思うと、
正直言ってそこが効いてないわけではないんだけども、
じゃあ『ホテル・ニューハンプシャー』の古典落語版ってことにもなりますわな。
いや、レイプとかはないんですが。
フランキー堺がかっこいいんですよね。
女郎の真似して座敷にあがったりしたときも、御膳を下げるのも、手助けするときも裏切るときも、
どっかずーっと影があるように見えるんですよね。
凄く得する設定なんですよ、高杉晋作が上海で買ってきたという懐中時計を、
何故か佐平次は修理できちゃうんですね。
ピンセットみたいなのを使ってたりして、修理代も頂きますねーなんて言って。
薬を自分で調合して飲んでたりするような、薬学的な知識も持ち合わせているという、
それで難題も解決するし、困ってるとこには助けに行くし、騙された!と思っても最終的には味方だし、
敵にすると恐くて味方だったら心強いんだけど、それほどに信頼もできなさそうな割に、全くの悪人でもないという。先頭を切るようなリーダーではないのだけども、彼がいないことには皆が困ってしまう。物語の中心にぴったりだよなあ。
そして、肝心だと思うんですが、胸の病気なんですね。よく咳してる。
その体の弱さ、病気もちであることが、佐平次の危うさというか怪しさ、悪さや力みたいなものの説得する最適な材料になってると思うんです。
筋骨隆々五体満足頭脳明晰で頼れる兄貴ってだけじゃあ話にならんわな。
病気持ちってことが魅力の免罪符になってると言えば、『TSUGUMI』もそうですよね。佐平次みたいに動きまわらないけども、病気持ちじゃなけりゃ話にならない。
設定として惹かれるのは病気持ちってことですが、
視覚的に良かったのは、フランキー堺の走り方とか、羽織の着方、三枚起請のときの暴れ方など、動きがいちいち決まってるように見えました。
『百万両の壺』のときの大河内傳次郎扮する丹下左膳の走り方も良かったですが、それのときよりも今回は動きが多かったと思います。
話は落語だから知ってるんだけど、
やっぱり病気って設定とフランキー堺の動きが、良かったってことかしら。
セットもとても良かったです。廊下やら階段やら、だいぶ大きく作ってあって、
あれが客の話なら廊下なんて無しに部屋だけで良かったのかもしれないけども、
スタッフの話だから廊下がちゃんと必要だったのね。
あと、相模屋の外の橋、大工の父を見送る娘のときのあの橋が映るところは、錦絵のようでしたね。白黒だけど。
石原裕次郎は笑うと裕次郎の笑い方で、これはこれでおかしいです。誰の役を演じてるかじゃなくて、スターはスターとして出演してるんだなという笑い声でした。