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映画批評は映画を見てから読むタイプです。

基本的に感想は、見る前には読まないようにしてます。

 

『セッション』と『バードマン』は見てから読みました。

したらば、『セッション』の批評がヤフーニュースに載ってるなんて!

しかも大好きな菊地成孔とよくチェックしちゃう町山智浩の論争なんですと。

 

菊地成孔の文章は長くてしかも映画見てない人には分かりにくいと思われます。

映画の内容についての批評で、しかも菊地成孔はプロのジャズミュージシャンだから素人とは全く見地が異なる。

だから読んでも、映画見てる人もピンと来ないかもしれない。

一方、それに対しての町山智浩の批判が明白なのは、内容についての理解に齟齬があるからではなくて、菊地成孔を批判してるから。

となると菊地成孔って分かりやすい人なのってことではなくて、

論争って勝敗を決めるのは周りの人であって(映画の批評は勝ち負けじゃないけど)、

野次馬に興味深いのは映画がどうのこうのじゃないからってことで。

 

各界の著名人が絶賛するショーレースでも健闘したジャズ映画を、何故プロのジャズミュージシャンが貶すのか。

すごく気になる一方で、もしかしたらなと納得できる面もあります。

あの映画の肝はジャズじゃなくても成立はしますよね。

これの甘口みたいな映画もそのうち出てくるんでしょうね。

 

で、実際に菊地成孔の批評を読んでみて、「セッション」のどこが問題とされてるかといいますと、

・音楽への愛がない

・異常な指導と努力の割に演奏の質が高くない

・ただのスポ根ものであって、ラストのどんでん返しは脚本の出来によるものではない

この三点かなと思います。

他にも、ジャズの知識がめちゃくちゃだ、とかもあるかと思います。

ビートルズ好きな少年が憧れる教師の話がヘビメタのエピソードで、教師がラッパー似、主題歌はテクノ」だったら変でしょ?という例えが分かりやすいです。

お前はロックとかポップス知らねえだろ!と、しかも大ヒットしてたらなおさら、言いたくなるでしょうよ。

あと、「異常みたいに描かれる教師が実際には珍しくない」というところもあるみたいです。

絶賛コメントの嵐の割にジャズ関係者からのコメントが綾戸智恵以外に無い、というところも酷評を公にした理由があるみたいです。

 

言われてみればたしかに、というのは、あれだけ練習してるにも関わらず、

バディ・リッチのCD聴いてればいいじゃんという演奏をしてるってとこです。

そりゃあナマで聴くのっていいですけどね。少なくとも全米一の音楽院のトップドラマーがすることじゃなくね?と思います。それともビッグバンドジャズって演奏は一通りしかないのかしら。

 

びっくりしたのは、菊地成孔の音楽愛です。

プロなんだから愛してるに決まってるけど、それにしても驚きました。

なにも(菊地成孔って音楽好きだったんだね、いろんなことしてるから気づかなかった)みたいな小馬鹿にしてるような物言いではなくて、改めて気付かされてしかもそれが深くて濃いからでした。

 

あと、人種のことをかなり意識してるんですね。

大学で白人が教えて白人が習う、黒人もいるけど音楽院なんてくるのは裕福な層だけ。

日本にいるとなのか私の意識が低いのか、人種って要素はけっこう勘定に入れ忘れます。

言語変種とかも、人種ってあるよね。でもそれは人種という肉体に固有の変種が現れるのではなくて、ある人種(が多く属する社会集団)ってことを固定的だとかあるいは考えなしに安直に言っちゃったことに過ぎないんだろうけど。

 

で、町山智浩のと宇多丸の批評を聴いたんですよ。

よく覚えてないってのもありますが、

「立身出世のための道具としてジャズドラムを捉えている」みたいなのってそんなん映画で描写されてたっけ?

ドラムが好きだから偉大なドラマーになりたかったんじゃないの?

他にも、そう解釈できるだろうなってとこはあるけれど、そこまで明言してないでしょってとこがあったような気がします。

そこまで明言されるからわかりやすいぶん、そこまで言わないのも粋じゃないですかという気もします。

 

酷評した大義名分としては、ジャズ界からの評価がほぼ皆無だったからちゃんと酷評しないとってことでしょう。

噛み付いた大義名分は、酷評によって良い映画がコケるのを防ぎたいってことだったと思います。でも本心は考え方が違うからってことに見えました。

 

いずれにせよ、映画は面白かったです。

ドキドキした。

最初の一発でやられちゃうからあんなのは脚本としても杜撰だ、とかオチの仕掛けに無理があるとかはわかるとしても、

ドラム演奏シーンになると自然と息を止めちゃうし、

興奮して恥ずかしいくらい濡れちゃいました(脇汗で)。

あんな教師はざらにいるんだからあの程度で驚くなんて大丈夫か、にしても、

面白かったんですよとしか言えない。

とはいえ確かに、とのるのも変だけど、菊地成孔が再三再四述べているように、

『はじまりのうた』はめちゃくちゃ面白いし、『バードマン』のドラムはたまらないです。

同じものさしで測れるものでもないから比べることは出来ないけど、『はじまりのうた』は良いですよ。

 

で、何度か言及されてる『アメリカンスナイパー』の菊地成孔の評も読みました。

差別的でイデオロギッッシュな西部劇と泣けるドキュメンタリー風との二段ロケットになってる映画で、

西部劇部分が量的に多いのとかっこいいんだけど、終わり方が泣けるんで、見終わってから「いい映画だったよな」と思っちゃうようになってて、

で本当はどっちがテーマなのというと、難しいよねと。